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『人口減少時代の地域づくりⅢ ――ソーシャル・キャピタルの観点から』「はしがき」より
本書は、2011 年度に大学院人文社会系研究科で開講された「調査企画」「量的調査」、ならびに文学部社会学専修課程で開講された「社会調査実習」に参加した総勢41 名による、社会調査実習の報告書です。東京大学の社会学研究室が主宰し、同研究室に所属する赤川学(准教授)と常松淳(助教)が授業を担当すると同時に、調査責任者として調査実習の企画・運営全般を統括しました。
本調査の全体に関連するテーマは、2009 年度のテーマを踏襲し、「人口減少時代の地域づくりⅢ――ソーシャル・キャピタルの観点から」としました。ご存じの通り、日本の人口は、2004年の1億2,799 万人をピークに、ゆるやかに減少し始めました。その趨勢は、出生率が多少回復しようとも変わらず、少なく見積もって数十年は続くと考えられます。
人口減少は、社会のさまざまな側面に影響を与えます。とりわけ地域・コミュニティのレベルでは地域の自立、地方分権という名のもとでの地域間競争の激化、福祉の切り捨て、限界集落や農林業の存続可能性などが問われます。経済成長や人口増加に頼らず、人口減少を前提とした地域づくり・社会づくりが、21 世紀の日本にとって最重要な課題になると考えられます。
また2011 年3 月11 日の東日本大震災・福島第一原発事故をきっかけに、日本の地域づくりは大きな変革の時期を迎えています。この際、人びとの「絆」や「信頼」,ネットワークによって築かれるソーシャル・キャピタル(社会関係資本)が、復旧、復興、地域再生に大きな役割を果たすことが注目を集めています。過疎化や人口減少が進みつつある地域社会で、人びとの協調行動を促すソーシャル・キャピタルがどのような役割を果たすか、あるいはソーシャル・キャピタルを醸成するにはどうしたらよいのかが、学問的にも実践的にも大きな課題となりつつあります。
そのような観点から本報告書では、2008 年度・2009 年度に引きつづき、長野県塩尻市で特色ある試みを続けてきた二つの地区を調査対象地域として設定しました。ひとつは、町並み保存の先進事例として重要伝統建造物保存地区に指定されている奈良井地区、もうひとつは、漆工の町として重要伝統建造物保存地区に新たに認定された木曽平沢地区です。図らずも町並み保存で地域づくりを行っている二つの地域を比較することで、中山間地域の活性化と持続可能性に対して、ソーシャル・キャピタルが果たす役割について考えることとしました。そして全世帯に対してアンケート調査を実施し、個人単位、地域単位でのソーシャル・キャピタルを測定し、それが健康、幸福感、防災活動、国や地域への愛着、外国人への寛容さ、地域参加などさまざまな側面に大きな役割を果たしうることが示されています。
それぞれの論文は、本学大学院人文社会系研究科社会学専門分野に所属する大学院生と、文学部行動文化学科社会学専修課程に所属する大学生らが、自らの問題意識をもとに、自分たちで調べ、自分たちで考えたことを表現したものです。論文のアイデアはそれぞれの論文の著者に帰属しますが、論文中の不備や至らない点に関する責は、調査責任者が負っています。取材にご協力いただいたすべての方々に心からの感謝を申し上げるとともに、今後とも忌憚のないご指導を賜りますよう、お願い申し上げます。
目次
はしがき(赤川 学)
第1章 本年度実施した社会調査と調査対象地の概要(姫野宏輔)
第2章 ソーシャル・キャピタルを構成する6つの要素(赤川 学)
第3章 どうすれば幸福になれるのか?――ソーシャル・キャピタルを中心とした幸福度の規定要因の分析(礒部太一・近藤優衣)
第4章 幸福度・生活満足度・自己肯定感の差異と規定要因の分析――奈良井と木曽平沢における調査を通じて(吉村直人・巖水慧)
第5章 身体の主観的健康を規定するものは何か――分析的測定による主観的健康と,社会関係
資本の照応に注目して(石島健太郎・吉川沙紀)
第6章 高齢者の精神面における主観的健康感の構成因――年齢・性別と密な人付き合いとを中心に(石川博規・森健)
第7章 国への愛着の規定要因――ソーシャル・キャピタルと地域への愛着を中心に(青島陽・冨麻衣子)
第8章 地域に対する愛着の規定要――ソーシャル・キャピタルの影響を中心に(岡沢亮・櫛原克哉)
第9章 二つの地域参加意識を規定する社会的属性(小形道正・津田祐実)
第10章 地域参加意識と社会参加の実態の関連性――地域社会に参加する人々の意識と行動(姫野宏輔・岩瀬悦子)
第11章 外国人への寛容と排他性――中山間地域を事例として(富永京子・勝村円佳・イムアヒョン)
第12章 自発的な防災活動はなされているか――防災活動実態と地域改善意欲の決定因(猪口智広・岡崎佑大)
第13章 年賀状ネットワークとソーシャル・キャピタル(野口洋平・杉坂昭)
第14章 福祉政策への態度と「地域への信頼」(福田隆巳・原口彩花)
第15章 再分配意識にソーシャル・キャピタルが及ぼす影響――政府の再分配政策に対する支持意識に着目して(大西未紗・古家後知浩)
第16章 ブリッジング・ソーシャルキャピタルを規定する要因(渡邊 隼・山室 文)
第17章 ボンディング・ソーシャルキャピタルの構成要素――社会的属性を中心に(坂井愛理・中条祐紀子)
第18章 互酬性の規範を形成し強化するもの(小宮将之・藤本薫)
第19章 ソーシャル・キャピタル構成要素の関連とメカニズム(藤田研二郎・荒川拓)
第20章 メディアの利用は社会参加を促すか(岡崎拓也・山下将司)
第21章 メディア利用は,意識にどのような影響を与えるか――幸福感、主観的健康感、政治意識を中心に(崔 謙・福益博子)
単純集計
1 年間のあゆみ
調査実習参加者名簿
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